Cutting-edge Research■ 精神疾患研究の未来を見据えて「今後ヒトの研究も進められるのでしょうか。」林(高木):慶應義塾大学医学部脳神経外科と連携をしていて、脳腫瘍の摘出検体の一部を実験に使わせてい左:神経細胞の全体像。ピペットが吸着している丸い構造が細胞体。右上下:左の白点線内を拡大したもの。1~4が実験で活性化した巨大スパイン。 8個がだいたい同じ平面にないといけない。そうなると条件がそろう確率が下がっていくんですね。林(高木):こういうのは、足し算じゃなくて、掛け算で大変になっていくんです。小尾:全部条件がうまく揃っていよいよ初めてデータが取れる、というその瞬間に、手にバチッと静電気が起きて、記録しようとした神経細胞が死んでしまったこともありました。嘘だろー!と実験台を叩いたら手が血だらけになっていた。冬はもう、立った、座ったでバチッてなる時もありました。服を脱いで全裸で実験やろうか、という考えが一瞬頭をよぎったくらいです(笑)林(高木):なりふり構わず(笑) 2光子顕微鏡の部屋って機器が熱くならないように低温に保っているので、寒くて、スキーウエアを着たいくらいなのにね(笑)「逆に実験していて感動した瞬間はありますか。」小尾:いまだに覚えているのは初めて巨大スパインの活性化の影響を目にした瞬間です。1個、2個、3個と活性化するスパインの数を増やしていった時に、どういうイベントが起きるのか見ていた。普通の大きさのスパインは8個から10個ぐらいにほぼ同時に入力を入れないと神経細胞の活動は起きないんです。ところが巨大スパインは2個目から何か怪しい感じで、3個目にもうばーっと発火したので「ええっ!?」となりました。あれは感動しました。ただいています。「ヒトが有する特性は何か」をテーマに霊長類のマカクザルやマーモセット、げっ歯類のラット、マウスなどと比較をしながら、実験を進めています。こういう実験は世界で初めてだと思います。小尾:スパインの活性化までいくと世界で初めてですね。こうした技術を持っている研究室が世界で四つくらいしかなく、しのぎを削っています。林(高木):しのぎを削ってというか、自分たちが信じた道を行くというか。「時代の流れとかはもう、気にしない!」という感じ(笑)小尾:「興味があるからこちらに進みます」という。林(高木):私はまたまた、研究費獲得のための書類を書いて励ますだけ(笑)実際、ヒトに特徴的と思われる興味深いデータが取れてきているようです。小尾:そうですね。今のところ取ったデータには一貫性があり、マカクザル、マーモセット、ラット、マウスとも比較しています。少ない機会を一つひとつ大切にして、この実験に命を懸けて挑みたいです。林(高木):まさに一期一会という感じで進めています。「この成果をもとに治療薬や治療法を開発する見通しなど、先生がたのこれからの研究を教えてください。」林(高木):実は私は、巨大スパインは直接治療薬の対象にはならないと思っています。今回の私たちの成果は非常に重要な発見です。でも考えれば考えるほど、巨大スパインだけに働いて、他の普通のスパインには作用しないような治療薬を開発するのは無理だと思うのです。電子顕微鏡で調べると、巨大スパインと通常のスパインの構造はほぼ同じです。形態と機能というのは表裏一体なので、構造が同じならば恐らく分子の構成も同じです。例えば、直径0.8 マイクロメートル(μm)
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