CBS Magazine vol.7
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「研究生活でプレッシャーを感じることはありますか?」「では、そんな楽しい研究の成果について教えてください。」ヨーロッパで最初にびっくりしたのは、日曜日にお店が全部閉まっているということ。アメリカや日本のような、いつでもなんでもアクセスできる国から来た者にとってはすごく驚きなんですが、それは休息を大切にするとか、文化の違いですからね。日本に帰国してからもつい、「あ、明日日曜日だから今日のうちにこれこれしとかなきゃ」と言って、家族に「何言ってるの?」と笑われています(笑)ヨーロッパではなんとなく、常に外国人であることを感じていました。ベルギーでの最初の数年間は研究室の立ち上げですごく忙しくてあまり気にならなかったのですが、しばらくすると「ここに何年いるの?」とか、「なんでここの言語喋れないの?」などといった質問をよく受けるようになるんですね。わりとベルギーはおおらかなんですけど、ヨーロッパ全体的に、生涯外国人としてその国で勝負していくことに対してハードルが高い雰囲気がありました。PIということでは、やっぱり資金をとってこなきゃ、メンバーを育てなきゃというプレッシャーはありますね。ただ、慣れますけど(笑)研究室を主宰した最初の1、2年はこれからどうやっていくのかな、とか考えて眠れないこともあったんですが、今ではメンバーの来年の給料を払えないかもしれないという状態でも熟睡できますからね(笑)なんとかなる、という自信が出てきたんでしょうね。ポスドクの時は、PIのポストを探すのがプレッシャーでした。狭き門ということは分かっていたけど、その時はちょっと辛かった。でも研究自体にプレッシャーというのは感じません。沢山の良い研究者仲間に囲まれてアドバイスをいただいたりしているからだと思うんですけど。面白そうだなと思うテーマを見つけて、それについて考えて、実験して、そして答えが分かって、というのはやっぱりすごく希望のある仕事だと思います。研究はとにかく楽しいですね。Scienceの論文*1ですね。あれはまさに環境が育ててくれた論文だと思います。神経科学では、脳がまずあって、脊髄は脳に指示されたことをやる器官、と思われています。脊髄自体がいろいろやっているんじゃなくて、脳と筋肉の間のメッセンジャーというような考え方。でも大学院時代、Reggie先生が脊髄で起こる学習があるとおっしゃっていて、脊髄がどう学習して可塑性で変わっていくのか、というテーマにずっと興味があったんです。研究を開始した当時、周りにいろいろなテーマをやっている研究室があって、そういう人たちと話をすることで研究が上手い具合に進んだといいますか。環境に恵まれたからこそ、脊髄における学習というチャレンジングな研究を成し遂げられたというところがあります。さらに、もう一つ恵まれたのがテクニックです。回路系とかシステム系をやっている脳神経科学の研究者は、電極を刺してどんなニューロンがどんな活動をしているか調べているんですが、脊髄では今までそういう実験はされたことがないんです。というのは、脊髄は動物が動くと一緒に動くんですけど、電極は固いので動物が動いた時点で脊髄に傷をつけてしまって、運動に支障が出てしまう。ところが最近、ニューロピクセルズ・プローブというシリコン製のものすごく薄くて柔らかい電極が開発されたんです。電極の配置も高密度なので多くの神経細胞から活動を記録できる。これを脊髄に使って、動物が何か学習している時の脊髄の神経活動データを集めることに成功しました。実はこの電極を開発したIMECという研究所の建物内に私のベルギーの研究室はあって、こういう最新の技術がすぐ近くで開発され、研究所でもすぐに使われ始めていた。これも環境のおかげだなと思っていることです。やっぱりこれから研究者として生き延びていくには新しい技術をどんどん取り入れていく心構えが必要だと思います。もちろん新しいからいいという訳でもないし、何も知らない技術を取り入れるのは大変なこともある

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