CBS Magazine vol.7
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■ 進化のキーは模倣にある!?「ヨーロッパでの研究について教えてください。」ということってたぶんあるんじゃないかな、と思いました。人間行動を研究する心理学ならそういう研究があるのでは、と考えて、北大文学部心理学のある先生に連絡しました。その先生自身はそういった研究をしていなかったのですが、隣の講座のチームはそういう進化生物とか進化心理学をやっているということで、僕のメールを転送してくれて紹介していただいたのがPh.D.の指導教官、亀田達也先生です。北大の社会心理学の講座は、進化とかバイオロジーの発想を軸にして社会心理学的な問題にアプローチしていました。今考えると、当時日本でそういうことをやっているグループってあまり多くなくて、そういう意味ではラッキーな環境でした。グループで討議をしてインタラクションすることで人の意見をどうやって集約すると良いのかとか、集団の意思決定を亀田先生は研究されていて、彼のもとで今につながる研究を始めたという感じです。博士課程3年生の時、ポスドクではもうちょっと進化生物学としての人間行動を研究しようと思いました。論文や本でずっと名前は知っていたセント・アンドリュース大学のKevin Lala先生に「フェローシップを取ったら行っていいですか」とメールしたら、「指導教官が承諾すればいいよ」って返信が来て、渡英しました。セント・アンドリュースには、文化進化学という学問分野とか僕が博士課程からずっとやっていた社会学習とかの研究室が集まっている研究センターがあって、エキサイティングな場所だったんですけど、それ以外にもなんとしても行きたかった理由がありました。私事ですが、スコッチウイスキーが好きで(笑)函館にいたとき、地元のバーでアルバイトしていたんですけど、仕事が終わるたびに1杯ご褒美に飲ませてくれて。それで、スコッチに興味があったので、店にあったウイスキーを棚の左から順に飲んでいったんです。お気に入りを一つ挙げろと言われたら、クラガンモアっていうスペイサイドという地区で作られている割と正統派なスコッチですね。スコットランドには蒸留所が当時120カ所ぐらいあって、ジュラという蒸留所以外は全部行きました。セント・アンドリュースには4年いて、日本に帰ろうかと思った頃コンスタンツ大学に採用されて渡独しました。集合知という言葉がありますよね。多数の意見は案外正しいといわれる一方で、烏合の衆が集まったら悲惨なことが起きちゃうといった集合愚もある。デマが流れるとか。「何でこんなのがはやっているんだろう?」と思うことがもてはやされて、「こんなに良いものが何で知られていないんだろう?」と思うことも起きる。本当に集合知はあるのかな、と疑ってしまう場面に日常生活の中で遭遇しますよね。集団の知恵が集約されて良い意見とか良い行動に結び付く場合とそうでない場合があるとしたら、その二つを分ける条件は何か、そしてその条件を定量的に理解できないか、といったことを研究しました。そういうことを調べる時には、数理モデルを立ててシミュレーションするだけじゃなくて、実際に参加者を集めてゲームをしてもらうんです。複数のスロットマシンで遊びながらお金を稼ぐというタスクで、スロットマシンによっては儲かりにくかったり、逆にお金がいっぱいもらえたりするのですが、どのスロットマシンがそうなのか参加者は知らない。自分で試行錯誤しながら、ちょっとずついいスロットマシンを発見していくんです。このタスク自体は、現実にあるいろんな意思決定の場面を抽象化したものです。例えば、どのレストランが好きか、あるいは行きたいかというのも、試行錯誤して自分の経験をもとに知識をアップデートしていきますし、キャリアの選択とか、どの株にどれくらい投資しようかなとか、いろんなレベルにおいて日常生活の経験に基づいて知識をアップデートしてまた次の意思決定をしています。複数人でこのスロットマシンのタスクをやっている時は、隣の人が何をしているのか見ながら他人の行動も取り入れて学習します。これをソーシャルラーニング

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