■ 熱中していたスポーツ、楽しかった大学寮生活、好きなことが研究につながるまで「どんなお子さんでしたか。」かなり小さい頃から水泳をやっていて、小学校の高学年から本格的に始めました。全国大会に出場するとか、そういうレベルにはならなかったのですが、北海道大学の体育会水泳部に入って学部4年まで泳いでいました。種目はずっと自由形で、200mと400mをメインにやっていました。「学部は北海道大学(北大)水産学部 海洋生物科学科をご卒業ですが、なぜ海洋生物について学ぼうと思われたのですか。」中学とか高校の頃、生物学の教科書に載っている細胞小器官のイラストを見て、「こういうの、どうやって調べるんだろう?」と想像して、まず生物への興味が湧きました。「スイミング・マガジン」っていう水泳選手が読む専門雑誌をいつも立ち読みしていたのですが、代謝のメカニズムとかコエンザイムQ10に関する最新の研究とかいっぱい書いてあったんです。コエンザイムQ10がどう効くかは最終的によく分からなかったですけど(笑)でも、コエンザイムっていうことは補酵素なのかなとか、生物を勉強するとだんだんそういったことが分かってくる。無酸素代謝と有酸素代謝の違いについての知識もスポーツに結び付いて、生物を学べば学ぶ程面白かったですね。大学進学についてあまり真剣に考えていなかったので、大学の学部に何があるのかよく知らなかった。テレビで海の中は未知が多いことを知って、海の生物に関する研究が面白いんじゃないかなと思って海洋生物科学科を選びました。水産学部は函館にあるから、札幌だけじゃなくて函館にも住めるし(笑)生物学が好きでしたが、大学4年生の卒論テーマが基礎的な個体群生態学っていう分野で、生物個体群の量が増えたり減ったりするダイナミクスを数学で表して、どういう時に数が増えるんだろうとか、どこまで数が減るだろうとか、増えたり減ったりするタイミングにパターンがあるだろうかとか研究しました。数学で生物を研究して理解できるプロセスがあるんだ、と初めて知りました。水産業と農業の大きな違いは、水産業は野生生物を捕るというところです。野生生物は、増えたり減ったりする。それらを漁獲するので、生き物の数の増減を定量的に理解できないとうまく資源管理できないんです。被捕食者が増えると捕食者も増えるんですが、後追いで今度は被捕食者が減っちゃう訳です。そうすると、捕食者の食べ物が減るんで捕食者も減っていく。そういう「食べる・食べられる」の関係が、生き物の数の変動にすごく結び付いている。そこにわれわれの漁獲が重なってくるので、どの辺をどのくらい漁獲すると安定的に持続可能な最大収量を将来にわたって捕れるかということを予測するのが水産業では結構重要な命題なんです。その根底にあるメカニズムを考える際に、個体群生態学という学問があります。「修士での研究が人間システム科学専攻になったのは、学部での卒論がきっかけだったのですね。」そうです。でも、それだけじゃなくて、修士以降の研究については大学の寮でずっと暮らしていたことも影響しています。北大の学生寮は、今となっては珍しい学生自治寮なんです。東京大学駒場寮はなくなっちゃいましたけど、京都大学の吉田寮みたいな数少ない自治寮の一つである恵迪(けいてき)寮というのが北大にあって、今も学生が運営しています。水産学部にも北晨(ほくしん)寮があって、学生時代はいつも人々に囲まれていました。恵迪寮はカリフォルニアにある刑務所をモチーフにした建物で、5階建ての六つの棟があるんです。真ん中に中央棟があって、昔はそこに大学の管理人がいて各棟を見張っていたんですけど、学生が彼らを追い出して自治にした歴史があります。もともとは個室仕様でしたが、10部屋で一つのブロックになっていて、10人で10部屋をシェアして住んでいます。どういう風にブロックをシェアするかはさまざまで、勉強部屋や寝室をどの部屋にしようとか、居間に仕切りがあったら邪魔だから全部壁をぶち抜いちゃって大きい部屋にしようとか、10人全員で議論して10部屋を使っているんです。また、恵迪寮では月に1回夜な夜な議題を討論する時間があって、予算編成とか新しく寮に入りたい人たちの選考をどうするかとか、寮祭や寮のイベントの運営をどうするかとか、改修工事をするに当たってどう大学当局と折衝するかとか、そういう議題を毎月執行部がまとめて各ブロックで討論する。ブロック毎の代表が更に討議するんですが、そういう政治の仕組みというか制度設計が身近にあって、こういうのって生き物の生態系と似ている面があるな、と感じたんです。あるアイデアがあって、そのアイデアがどうやってほかの人に伝わっていくかというのは、感染症のダイナミクスと類似性もある。数学を使って、そういう進化生物学とか生態学のような発想で人間社会の研究をする
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