CBS Magazine vol.5
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*1 Fujiwara, T. Brotas, M. and Chiappe, M.E. "Walking strides direct rapid and flexible recruitment of visual circuits for course control in Drosophila." Neuron 110, 2124–2138. (2022)「将来の夢を教えてください。」のように関係しているのかということは沢山調べられてきたんですけど、歩行中の脚の軌道と神経活動にどんな関係性があるか、といった点は全く調べられてこなかった。そこでハエを使って、ハエの歩行ステップでの動きと神経細胞の関係性を調べるというところに焦点を当てて研究を始めました。そもそもハエでは脳の神経活動の中で歩行のステップレベルの情報をコーディングしているのかいないのか、それすら分かっていなくて、基本的な歩行なら体の中の神経細胞だけで処理されていて脳は全く使われていないのかもしれないし、むしろ歩行というのは脳を使って計算するには非常に速い運動動作なので脳は使われていないのではないかと考えている人は結構多かったと思うんです。でも僕たちがある特定の神経細胞から活動を計測してみたら、実際に歩行に応じて神経活動が同期して振動するような現象が見られた。おそらく昆虫では初めて、歩行のステップレベルの情報を脳が計算していることが分かったんです。しかも、単に脳がステップの情報をモニタしているだけではなくて、その情報を使って、ハエの歩行軌道がそれた時にそのステップの信号が増幅されて、それが軌道の補正に役立っているということも分かりました。つまり、脳の歩行ステップの情報が運動制御に貢献しているというところまで突き止めることができました。もう一つ分かったのが、歩行のステップが時間を重ねるごとに積算されて、その情報が歩行速度を表現しているということです。例えばゆっくり歩いているときは積算された信号がどんどん下がり、速く動くときには積算された情報がどんどん上がる、という感じで、ステップ毎の信号が積算されることによってどのくらいハエが速く動くかということも同じ歩行ステップ信号を使って、脳がコーディングしているということが分かりました。同じ信号が二つのことに使われて有効活用されているんです。今後もハエを使って、例えばマイクロメータースケールの脚の軌道や動きを、どのように脳の神経回路が制御しているのかというところを突き詰めて調べたいと思っています。直近では、ハエの運動中枢の250個位の神経細胞群がどのように運動を制御しているのか、というところに一番興味があります。そもそも歩行中の神経活動を同時に計測するという論文自体が今のところほとんどないのでそういったところをまず調べて、最終的には神経回路が全体としてどのように運動を制御しているのか解明したいです。一番大きな夢としては日本の教育改革をやりたい。日本人は学校でも会社でもみんなすごく真面目に頑張っているので、これを最大限に生かせば教育でも経済でも世界で一番になれると僕は信じているんです。政治はもちろんですけど、やっぱり一番の根本として国家百年の計は教育にあると思うので教育の面でシステムを変えることによって全体的に教育レベルを上げていくことが重要だと思います。研究が上手くいってそこまで関われるような立場になったらぜひやりたいことです。■ 取材日:2023年1月18日

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