Ayako Ouchi & Shigeyoshi Fujisawa, "Predictive grid coding in the medial entorhinal cortex", Science, 10.1126/science.ado4166与謝野 晶子時空間認知神経生理学研究チームチームリーダー 藤澤 茂義, Ph.D.創造は、過去と現在とを材料としながら、新しい未来を発明する能力です基礎科学特別研究員 大内 彩子, Ph.D.Cutting-edge Research■ 飽きずにのめりこめるものにようやく出会った大学時代「大内さんは、どのようにして脳科学に辿り着いたのですか。」大内:子どもの頃はあまり勉強が好きじゃなくて、高校生まで自分がどんなことに興味があるのか分からないまま生きていたんですけど、高校2年生の夏に池谷裕二先生の本に出合って、脳って面白そうだな、とすごく興味を持ちました。池谷先生のプロフィールに薬学部出身とあり、とりあえず薬学部に行こうと。当時は文系でしたが理転して、北里大学薬学部に入りました。実は北里大学薬学部はかなり医療寄りであまり脳科学の勉強はできなかったのですが、良かったのは薬剤師の免許が取れたことですね。当時はそんなに気にしていなかったんですけど、父親に「やっぱり免許は取っておいた方がいい」と言われて薬剤師の免許を取りました。今振り返ると、取っておいて良かったなと思います。「大学院に進もうと思ったきっかけは。」大内:学部時代に薬理学教室の松尾由理先生という指導教官の方について初めて研究というものに触れました。そこで自分が飽きずにのめりこめるものに初めて出会ったと感じました。気づいたらご飯を食べていない、トイレに行っていない、という感じで、こんなにも集中してやれるものはなかったな、ちょっと向いているかもしれないな、と思いました。やれるところまでやってみようと、原点回帰という感じで、博士課程は池谷先生の研究室である東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室に入って、海馬の研究をずっとやっていました。そして池谷ラボが主催している「海馬と高次機能学会」で藤澤先生の講演を聴く機会があり、「この人とだったらいい研究ができそうだ」と直感して、藤澤ラボに来ました。藤澤:初めて大内さんにお会いした時は、やる気があってしっかりした学生さんだなという印象を受けました。大内:池谷ラボでは主に海馬の組織切片(スライス)の神経細胞から活動を記録していました。でもスライスで発見したことが生体内でも再現されるのか、というところを指摘されますし、自分でも思うところがあって、生きている動物の脳内の神経細胞から記録してみたいと思ったのです。ただ、コロナ禍ですぐには藤澤ラボに来られなくて。藤澤:理化学研究所でもコロナ関連以外の研究が3か月くらい止まり、見通しが立たなかった時期でした。大内:私は実験が制限されたことがすごく辛かったです。自由に外にも出られなくなり、気持ちがふさがってしまって苦しい時期でした。藤澤:僕は内向的な性格でソーシャルな活動が苦手なんですけど、チームリーダーという立場なので、人と交流しなければいけないと思って頑張っていました。それがコロナ禍で糸が切れたようになり、全く外の人と交流しなくなってしまって、やっぱりアイデアがあまり出なくなりましたね。人とのインタラクションは科学にとって大切なんだと実感しました。
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