CBS Magazine vol.8
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研究者の本棚202411-3000「『サブリミナル・マインド』は、カリフォルニア工科大学の下條先生が東京大学にいた頃の講義をまとめた本なんですが、今読んでも書いてあることがまったく古びていない。日常の認知や判断が潜在過程に基づいてあとづけ的に決まっている、という内容です。その潜在認知がどう人間社会に影響を与えているかを論じているのが、『サブリミナル・インパクト』。とにかくこのシリーズは面白いです。下條先生は学生時代の自分にとっては偉人だったんですけど、今は共同で研究しているのが感慨深いです。『イシューからはじめよ』は、僕の研究のやり方に影響を与えている本です。この本の主題は、重要な問題=イシューをどう見つけるかという話。世の中に問題はいっぱいあるけど、今解くべきかつ解ける重要な問題って1%もない。だから、問題を精査してその1%を見つけることが大切で、それをどうやってやるかということが書いてあって、これってもう研究そのものの話。研究の価値には、問題の解決策に対する精度みたいな軸と、問題そのものの質という軸があって、いくらしょうもない問題でも、問題の解決の精度を上げていくことは無限にできる。だけど、精度が完璧でも、問題の質自体が低かったらその研究の意義は薄い。逆に、最初は解の質が低くてもいいから、とにかく問題の質を高めなきゃいけない。そこに多くの時間を使えば、たとえ問題を解くのに失敗してもそこからスピンオフして重要な研究ができる。とにかくあらゆる視点から、イシューから始めるべきだという本です。」岡田 知久, M.D., Ph.D.研究基盤開発部門(RRD)機能的磁気共鳴画像測定支援ユニット ユニットリーダー「デカルトの誤り―情動、理性、人間の脳」アントニオ・R・ダマシオ 著、田中 三彦 訳、ちくま文芸文庫 2010年“Einstein's Error - At the Frontiers of the Brain and the Cosmos”, Denis Le Bihan, Odile Jacob Publishing, 2022「損傷脳の研究をしているアントニオ・ダマシオが書いた『デカルトの誤り』を紹介します。デカルトは『Cogito ergo sum(我思う、ゆえに我あり)』と言っている。でも、そうではない。生物というのは、入力があって初めてそれに対する反応が起きてくる。人間の脳がどのように作られるのか、損傷脳から見た人間の脳の回路や構造、そういったことを解説していて非常に面白い本です。『エラー』つながりでもう一冊、“Einstein’s error”も。フランスの高名なMRI研究者デニ・ルビアンが書いた本です。MRIでの拡散強調画像法と呼ばれる撮像方法を最初に論文として発表した人です。『拡散』という現象を最初に定式化したのがアインシュタインなんですが、そのアインシュタインに対してエラーと言うところが面白い視点ですけれど、とても難しい本です。MRIの発展過程と、ちょっとアナロジーを保ちながら、意識がどうやってできていくかとか、そういう話をしています。根性がある人は読んでいただければと思います。」藤澤 茂義, Ph.D.時空間認知神経生理学研究チーム チームリーダー 「ローマ人の物語 (全43巻)」塩野 七生 著、新潮文庫 2011年「ローマの史実を物語風に書いていて、歴史の勉強として読んでもいいし、物語として読んでも楽しめる。この本でローマの知識を深めると、他の本を読むときにも役立ちます。この前マキァヴェッリの『君主論』と『ディスコルシ』を読みましたが、マキァヴェッリは権謀術数の著者といわれるけど、本質的には共和制ローマを理想とした真面目な思想家だと感じ、理解が深まりました。知的好奇心が刺激される本で、とてもお薦めです。」大内 彩子, Ph.D.時空間認知神経生理学研究チーム 基礎科学特別研究員 「海馬―脳は疲れない―」池谷 裕二/糸井 重里 著、新潮文庫 2005年「池谷先生とコピーライターの糸井重里さんの対談形式の本です。雑談メインで、時折、池谷先生がサイエンスの話を混ぜて展開されるんですが、高校生なりに『脳って何だろう』とすごく興味を持ったきっかけとなった本です。最近読み返したら、池谷先生が31歳のときに書かれていまして、自分と同年代の頃に書かれたのかと考えると驚きます。」柴田 和久, Ph.D.人間認知・学習研究チーム チームリーダー「サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ」下條 信輔 著、中央公論新社 1996年「サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代」下條 信輔 著、ちくま新書 2008年「イシューからはじめよ―知的生産の『シンプルな本質』」安宅 和人 著、英治出版 2010年

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