CBS Magazine vol.8
10/16

Cutting-edge Research■ 高い目標に縛られるよりも自分が楽しめることを続けられる社会を「今の若い人たちは、修士は取っても博士課程はためらうとか、博士になっても、研究者はやめておこう、とあきらめる人が多いと聞きます。若い人に向けて何かメッセージをお願いします。」大内:みんな、良くも悪くも結構目標が高い気がするんですよね。大学院時代の仲間で製薬会社に就職した人は口をそろえて「院生のうちにCNS(Cell, Nature, Scienceの3大トップ国際科学雑誌)に出せたら、アカデミアに残る」と言っていました。でも、研究ってそんなに上手くいくもんじゃないから、楽しいんだったら続ければいいと思うんです。私はやっぱり自分が楽しめることをやりたい、という気持ちを優先したかった。一方で、確かに企業の方が安心感があるのは分かるし、その点、私には薬剤師という免許があったことが大きかったかもしれないです。研究が上手くいかなくても仕事はあるという安心感がある。薬剤師という後ろ盾があるからこそ、研究の世界に飛び込むというチャレンジができたし、今、研究に集中できている。藤澤:日本はやっぱり、そういう第二の道が少ないというか。アメリカだったら、生物学の研究者なら、ポスドクの途中でドロップアウトしても、製薬会社ですぐポスドクより高い給与で雇ってもらえる。AIの研究者でも、アカデミアを離れたとしても、AI企業やIT企業でいくらでも雇ってくれる。そういう保険が日本に少ないというのがありますよね。博士課程やポスドクの研究で上手くいかなかったら、就職先に困ってしまうこともある。そういった現状が、若い方が二の足を踏む原因なのかもしれません。これからの日本の科学の発展のためには、我々のような中堅の研究者が若手研究者を育てていくだけではなくて、社会全体で博士号を持った若手の受け皿も作っていく必要があると思います。■ 取材日:2024年9月19日本ですね。大内:藤澤先生はご自身が積極的に解析をされるというのも、このラボの特徴ですね。今回の研究も藤澤先生とは二人三脚でやらせていただいた感じがあります。藤澤:僕、解析が趣味なので。むしろ解析の部分を取ってしまって悪いなと思っているぐらいなんですけど。「藤澤ラボは雰囲気も良いとお聞きしていますし、論文も沢山出ていますが、ラボ運営にあたって心掛けていることはありますか。」藤澤:できるだけそれぞれのメンバーとインタラクションしながら進めたいので、あまりラボのサイズを大きくしないということでしょうか。数人だとそれぞれが好きなことをしていても、大体、把握できるかなという。できるだけそれぞれの人に自由に進めてもらうというようにしていますね。「それぞれ自由に進めてもらって、ディスカッションの時間を沢山取る感じですか。」藤澤:ディスカッションはいつでも歓迎、スタイルですね。この時間にディスカッションをするというのは特に決めずに「いつでも来てください」みたいな感じです。だからよく来てくれる人はディスカッションできるんですけど、来てくれない人はあんまりできないので、そういうときは一生懸命、僕の方から声をかけますけど(笑)大内:みんな、そんな先生を尊敬していますよ(笑)「藤澤ラボとして、今後、どのような方向に進もうとしていますか。」藤澤:そうですね。大きい流れとしてはエピソード記憶の解明があります。どのように視覚、聴覚、嗅覚や自分の動きなどが統合されて、海馬によって物語が形成されていくのか、記憶とか物語が認知されていくのか、そのメカニズムの解明というのをより深めていきたいですね。私たちのいわゆる「人生体験としての記憶」という、厳密な意味でのエピソード記憶はヒトにしかないものだと思います。でも一方で、ラットやマウスでも数十秒とか数分とかいうレベルだったら、自分の経験をきちんと物語として記憶できているんじゃないか、ということがいろんな研究から示唆されているのです。空間や場所の情報もそうですが、場所以外の情報についても、一瞬一瞬の情報を一続きにつなげて記憶するという意味でやっぱりヒトに近いメカニズムで形成されているんじゃないかなと思っています。だからラットやマウスを用いた研究をさらに掘り下げることで、ヒトのエピソード記憶の解明につながる成果を得ることができると期待しています。

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る