CBS Magazine vol.7
6/16

*1Simon Lavaud, Charlotte Bichara, Mattia D’Andola, Shu-Hao Yeh, Aya Takeoka. “Two inhibitory neuronal classes govern acquisition and recall of spinal sensorimotor adaptation”. Science 384, 194-201.「今後の目標について教えてください。」けど、ちゃんと考えて使っていくというのはすごく大切だなと思います。この技術のおかげで、運動中の脊髄の中のインターニューロンが、入ってくる感覚神経を制御することで大切ではない情報を抑えて、大切な情報を目立たせているメカニズムがあることを初めて発見しました。誰もやったことがない、世界初の大変な実験だったんですが、苦労した甲斐のある結果になって良かったなと思っています。私が大学院生の時Reggie先生が、 “If it were easy, someone else would have done it already.”(簡単だったら、もう誰かがやっているよ)と、よく仰っていました。それをすごく覚えています。私も今、メンバーに言うんです。そして、研究者は良い意味でのナイーブさがある程度必要だと思います。ある程度のナイーブさが大変そうでもトライすることに繋がって、そんな姿勢が研究にはすごく大切なんじゃないかなと思います。やりたいことがいっぱいあります。今回のScienceの論文は、すごく単純な、例えば「痛っ!」と思った時に手を引くような、そういう行動がどういう風に学習されて、その後避けられるようになるか、ということを研究したんですが、運動機能にはもっといろいろありますよね。例えば陸上のハードル走とか。あれは難しいんですが、2、3歩走って1歩足をあげて、というパターンが繰り返されるもので、脊髄の学習について調べるのに向いている。だからハードル走のアイデアを使って、脊髄の中の神経回路がより複雑な行動をどのように学習し、学習したことをさらにどう維持していくのかということを調べたい。他には、学習と維持の間にある強化というプロセスに興味があります。強化が脊髄の中でどんなメカニズムで行われているのかとか、強化に睡眠が関係する可能性とか、いろいろ面白い研究を考えています。また、脊髄の中で学んだことと脳で学んだことがどうやって統合されて行動として実行されるのかというのも将来的には追っていきたい方向性ではあります。イメージトレーニングなんかも面白いですね。イメージというと脳だけ、と考える人がいっぱいいると思うんですけど、実際に体を動かさずにイメージしている時、抑制性の神経細胞に実際の運動機能は抑えられているのですが、脊髄も含めて実際に運動しているような回路が活性化されることもあるんですね。そういうことも研究していきたいです。これはもう20年とか長い目で。研究以外では、私も中堅になりましたので、若手、特に女性を育てていきたいし、外国で長く暮らしたので、日本で外国人研究者が研究しやすいような環境を作っていくことに貢献したいです。やっぱり多様な人がいるというのは研究の強みになると思います。PI、ポスドク、学生といろんなレベルで国際化を進める手助けができたらいいなと。大学院でも、ポスドク時代も私の指導教官は女性だったので、自分がPIになるまで気づかなかったんですが、やっぱり圧倒的に女性の研究者が少ない。本来、上司は上司、科学者は科学者で性別による違いはないはずなのに、男女間で差がある。同じような経験をしてきた男子学生と女子学生でも、男子はなぜか自信に満ちているのに、女子はやはり自分に対する評価を抑えている感じがします。そういう意味でも男性と女性が半々になっていかないといけないし、そのためにも積極的に女子学生をサポートしていきたいな、と思っています。■ 取材日:2024年3月19日

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る