Ryo Endo, Yi-Kai Chen, John Burke, Noriko Takashima, Nayan Suryawanshi, Kelvin K. Hui, Tatsuhiko Miyazaki, Motomasa Tanaka, "Dysregulation of ribosome-associated quality control elicits cognitive disorders via overaccumulation of TTC3", Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS), 10.1073/pnas.2211522120 Cutting-edge Research■ タンパク質の品質管理「遠藤さんのバックグラウンドを教えてください。」遠藤:大学での専攻は生物工学科です。修士の後すぐに博士課程には行かず、社会人として動物衛生研究所で牛海綿状脳症(BSE)の原因タンパク質であるプリオンの研究を1年ほどしました。そこで「神経は面白いな、博士課程に行きたいな」という気持ちが芽生え、大学院を卒業後に神経変性疾患やタンパク質の凝集体を研究している田中ラボに加わり、現在研究員として研究を続けています。田中:神経変性疾患というのは、ハンチントン病やアルツハイマー病などのように、神経細胞に異常が生じて機能できなくなったり、細胞死を起こしたりする病気です。原因は様々ですが、いずれも異常タンパク質が凝集し脳に蓄積することが引き金になると考えられています。なぜ異常タンパク質ができてしまうのか、なぜ凝集して蓄積してしまうのか。私たちのラボはそのメカニズムに焦点を当てています。「そもそもタンパク質はどのように作られるのでしょうか。」遠藤:細胞内のリボソームという構造体は、DNAの遺伝子情報のコピーであるメッセンジャーRNA(mRNA)の情報を読み取り、対応するアミノ酸を次々と連結させることでタンパク質を合成します。このプロセスを翻訳と呼びます。翻訳されたタンパク質はそれぞれのタンパク質に特有の形に折り畳まれて働きます。異常私たちの体内で活躍する様々なタンパク質が作られる過程で、不良品が作られてしまうことがある。生体にはこうした正常ではないタンパク質を取り除いたり、それ以上作らないようにする仕組みが存在する。タンパク質構造疾患研究チームの遠藤良上級研究員と田中元雅チームリーダーに、このような「品質管理の仕組み」に関する最新の研究成果について伺った。■ リスク管理の仕組みが諸刃の剣に?「今回の成果を簡単にご説明いただけますか。」遠藤:私たちは培養細胞とマウスを使った実験を行い、タンパク質が作られる原因の一つが、この折り畳みの異常です。田中:高校で生物を学んだ人は「だるま形のリボソームが一本鎖のmRNAをすーっと一定の速さで進んで行くと一本の紐状のタンパク質が作られ、この紐がリボソームから外れてパタパタと折り畳まれると、タンパク質が完成」みたいなイメージを持っていると思います。でも実はタンパク質の紐がリボソームから伸びていくそばから、タンパク質は折り畳まれます。この辺りは上手い仕組みになっていて、凝集しやすいタンパク質や折り畳まれにくそうなタンパク質がリボソームから伸びてきたら、リボソームはしっかり一時停止して途中まで伸びた紐が正しく折り畳まれる時間を作り、もし折り畳みが上手くいかずにリボソームが完全に止まってしまった場合は、出来かけの異常タンパク質とmRNAの両方を分解する。リボソームは細胞が使うエネルギーの半分以上を使ってタンパク合成をしていて、そこが詰まってしまうと細胞としての機能が十分に果たせなくなるから、細胞は止まったリボソームを解消させる働きを持っています。こうした仕組みはリボソーム関連品質管理(RQC)と呼ばれています。品質は決して偶然ではない。知的な努力の結果である。 ジョン・ラスキン(イギリスの批評家)タンパク質構造疾患研究チームチームリーダー 田中 元雅, Ph.D.上級研究員 遠藤 良, Ph.D.
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