Kensuke Yoshida, Taro Toyoizumi, "Information maximization explains state-dependent synaptic plasticity and memory reorganization during non-rapid eye movement sleep", PNAS Nexus, 10.1093/pnasnexus/pgac286 Cutting-edge Research■ 医師の道から数理脳科学研究者に転身「吉田さんは医学部出身とお聞きしました。医学から脳の理論研究、大きな方向転換ですね。」吉田:東京大学(東大)医学部を卒業後2年間医師の初期研修をしましたが、やはり研究がしたくて東大情報理工の大学院に入りました。高校生の頃から数学が好きでしたが、医学部生時代に上田泰己先生のラボで睡眠の数理モデルの研究をして、さらに理論寄りのことをやりたくなったんです。豊泉先生が医学部でセミナーをされたことがあって、正直、難しくて全然分からなかったんですけど、文献を読んで面白いなと思いました。豊泉ラボに行きたくて情報理工に行ったんです。ちょうどCBSとの連携大学院制度が始まった時で。豊泉:第1期生です。医者をやめて数理研究を選ぶなんてギャンブラーだな、と思いました(笑)当時は知らなかったけど、実はすごい人なんです。例えば高校生の時に、数学オリンピックで金メダルを獲得しています。さらに学部時代に上田ラボから米国の一流科学雑誌PNASに筆頭著者で論文を発表してますし、東大医学部長賞も受賞している。孫正義育英財団の奨学生にも選ばれた。吉田:いろいろ運がよかったんです(笑)豊泉:あまりに優秀すぎて、一体なぜ私達のラボに来てくれたんだって思っちゃいます(笑)■ 理論だからこそ到達できる仮説「今回の研究成果を簡単にご説明いただけますか。」人は人生の3分の1ほどを眠って過ごす。睡眠は記憶や学習を強化することが知られているが、一体どのようなメカニズムが働くのだろうか。数理脳科学研究チームの吉田健祐特別研究員と豊泉太郎チームリーダーは数理科学を用いて、このメカニズムの解明に迫ろうとしている。二人に最新の研究について伺った。吉田:睡眠中の大脳皮質の神経細胞には、よく活動するアップ状態とあまり活動しないダウン状態とがあります。このアップ状態とダウン状態では観察されるシナプス可塑性が異なるという実験結果や、アップ状態とダウン状態があることが記憶に重要だという報告がありましたが、これらに関連する実験結果を「情報量最大化」という考え方を用いて統一的に説明できる理論を構築した、というのが今回の研究成果です。「ちょっと待ってください!アップ、ダウン状態、シナプス可塑性、情報量最大化…分からないことだらけです。」吉田:深く眠っている時には、1ヘルツくらいのゆっくりした徐波とよばれる脳波が出ます。この波にあわせて大脳皮質の神経細胞は活発に活動する状態(アップ状態)とあまり活動しない状態(ダウン状態)を行ったり来たりしているのです。しかも大脳皮質の神経細胞は、自分のすぐ近くの神経細胞同士で形成されているネットワークで同期する波、つまりローカルな徐波に対応してアップ、ダウン状態を行き来したり、より広い範囲の神経細胞同士で形成されているネットワークで同期するグローバルな徐波に対応してアップ、ダウン状態を行き来したりしています。このグローバルな徐波のアップ状態は記憶の定着を、ローカルな徐波のアップは記憶の忘却を誘導するという報告もありました。何のためにこの二つの状態があるのかはよく分かっておらず、何か理論的枠組みを与えたいというモチ数理脳科学研究チーム チームリーダー 豊泉 太郎, Ph.D.特別研究員 吉田 健祐, Ph.D. ヘラクレイトス深く眠っていても魂は働いており、世界の役に立っている。
元のページ ../index.html#7