CBS Magazine vol.6
6/16

*1 Kubo F, Hablitzel B, Dal Maschio M, Driever W, Baier H, Arrenberg AB. (2014) "Functional architecture of an optic flow responsive area that drives horizontal eye movements in zebrafish". Neuron 81, 1344-59.*2 Wu Y, Dal Maschio M, Kubo F, Baier H. (2020) "An Optical Illusion Pinpoints an Essential Circuit Node for Global Motion Processing". Neuron 108, 722-734.「今後の目標について教えてください。」のも後から分かってきました。ただ、この論文では、細胞もいっぱいあるしパターンもいっぱいあることが分かったんですけど、どれが一番重要なのかということは分かっていなかったんですね。そこで2020年の"Neuron"の論文*2ではいわゆる目の錯覚、「錯視」を使ってみようと思ったんです。錯視を感じている時の脳というのは何が起こっているのかというのは以前から純粋な興味としてあったんですが、中でも動きを逆に感じる錯視を使ったら、2014年の論文でいっぱいあると分かっていた細胞のうちの一部がその錯視に反応するんじゃないかというふうに考えたんです。言い換えると、錯視を使うことによって、いっぱいあったよく分からない集団から一部の細胞を浮かび上がらせて、それらが本当に重要なのかどうかを検証できないかと考えました。その結果、ごく一部の細胞のみが錯視に反応して、さらにこれらの細胞群がある脳部位にクラスター状に分布するのが分かりました。つまり、リアルの動きの時に発火するニューロン集団と、錯覚の動きを見ている時の集団を比べると、リアルの時の一部がイリュージョンの時に反応するというのが分かったということです。そして、このイリュージョンの時に反応するクラスター状のニューロン集団が、動きの情報処理に特に重要だということを突き止めることができました。ヒトにも錯視があるということは、同じような細胞がある可能性があるのかなと興味があります。だから、それをぜひヒトの実験でもやって欲しいなと思うんです。でもすべての神経細胞をヒトでくまなく見るということはまだできないですし、細かいところを拾えるぐらいの解像度もまだないのかなという気はしているんですよね。今後は、動物が何か情報を処理している時の仕組みを、神経活動のイメージングをすることで明らかにしたいです。特に、誰も予想していなかったようなニューロンを発見したいですね。ゼブラフィッシュはそこがやりやすい。研究には最初に当たりをつけて、これがそうかもしれないという仮説的なアプローチと、全然分からないけどこれに合うニューロンがあるんだろうかというスクリーニング的なアプローチの二つあると思うんですけど、ゼブラフィッシュの神経はスクリーニング的なアプローチにすごく適していて、誰も考えたことのないニューロンを偶然発見できるかもしれないという魅力があります。あとは、ニューロンのパターンだけだと、反応している、していないだけなんですけど、細胞は機能的に連結しているので、本当に回路図が分かるのかなというのは調べていきたいところですね。細かくて、すごく大変ですけどね(笑)1個の細胞は、大体100個位の連結部位を介して、ほかのニューロンと連結している可能性があるので、とても複雑に入り乱れているんですけど、でも、電子顕微鏡で得られるデータというのはすごくて、今まで全然分からなかった、例えばニューロンAとBが何個のシナプスを介してつながっているかとか、そういう細かいレベルまで分かってきているので、今面白い時代にいるんだなと感じています。■ 取材日:2023年9月15日

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る