「科学に興味をもったきっかけは何ですか?」「博士取得後、理化学研究所(理研)に入りますね。ここでも発生の研究をしていらっしゃったのですか?」「視覚という機能に興味がわいた時に、なぜ他の動物ではなくゼブラフィッシュを選んだのでしょう?」高校の生物の授業で、ある時先生が「これは動物細胞、これは植物細胞、細胞の中にはこういう細胞小器官があって」という話をして、「こんなことまで分かっているんだ。ロマンがあるな」と、すごく感動したんです。それで生物が好きになって大学は京都大学の理学部に進学しました。人類学や霊長類の研究も好きで、霊長類の研究で有名な先生がいらっしゃったのも京大に進学した理由の一つです。人類学の講義はすごく面白かったです。体を構成しているのは細胞なんですけど、細胞からできているだけなのにヒトやチンパンジーには、すごく高度な脳の機能があるというのがとても不思議で。ただ、実際に大学に入ってみると高校生の時には分かっていなかった世界が見えて、「分子生物学って面白いな。今まで分かっていなかったことがどんどん分かるだろうな」と感じたので、霊長類からいったん離れて生物ができる仕組みを研究してみようかなと思ったんですね。そこで大学院では、発生学を学びました。体の器官がどういった遺伝子や細胞のメカニズムで形成されるか、特に目の網膜がどうやって発生を介して出来上がるかについて、ニワトリの胚を使って研究しました。受精卵を孵卵器で温めると、発生が進行するんです。そこに遺伝子を導入して、目の発生がどういった影響を受けるか調べていました。卵を割ってしまうと発生しなくなってしまうので、ちょっとだけ殻に窓を開けるんですよ。そうするとニワトリの胚が一番表面に来るので、そこにセロハンテープを貼ってもう一度孵卵器に戻して発生を進ませる。うまく手術用のはさみでチョキチョキと切り抜くと、殻が割れずにきれいにできるんです。なぜ結局霊長類学を選ばなかったかというと、フィールドワークの大変さというのを実感していなかったんです。チンパンジーとかゴリラの研究ってフィールドワークでアフリカに行くんですけど、けがしたりとか、2週間ぐらいシャワーを浴びられなかったりとか結構ハードで、それは自分にはちょっと向いてないかなと思って。それに比べると分子生物学では、ニワトリの卵を触るのが楽しいし、毎日お風呂にも入れるし(笑)もともと大学院で一緒に研究していた中川真一さんという方が理研の独立主幹研究ユニットというシステムで独立されるということになったので、大学院で研究していた課題を理研で継続することになりました。ニワトリとか魚は発生の初期から目が見えるんですけど、細胞は増殖し続けるんですね。網膜が成熟して機能しつつも新しい細胞が幹細胞から生み出されて、木の年輪みたいな感じで成熟したところにどんどん新しい細胞が付け加わっていくんです。この現象が一部の領域でしか起こらない、ということは分かっていましたが、どのようなシグナルが網膜の細胞の新生を制御しているのか、当時よく分かっておらず、そのシグナルを突き止める研究をしていました。最初のシグナルを突き止めると、そのシグナルによって活性化される下流の現象は何だろう、という研究へとシフトしていって。その後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学して、ここからゼブラフィッシュの研究を始めました。最初は網膜の発生をやっていたんですけど、だんだん網膜だけではなくて視覚という機能全体の方に興味がわいてきて。留学先では視覚の機能、目で見た情報を脳がどうやって解釈して最終的に行動に移すかという、その脳のメカニズムにシフトしました。やっぱり、光遺伝学ですべての脳領域をターゲットできるのは脊椎動物ではゼブラフィッシュしかないと思ったんですね。マウスだと脳が大きいし、低侵襲的に光遺伝学のファイバーを脳の中に移植しないといけない。ゼブラフィッシュの場合は、サイズも小さくて透明なので、体の外側からそのファイバーを置けば刺激ができる。そこが他にはない良い点だなと。
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