CBS Magazine vol.6
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「SNS等コミュニケーションツールが飛躍的に進歩していますが、革新的な技術が今後のコミュニケーションの在り方をどのように変えていくのか、不安になることがあります。」した時に、横で走っていたタイソン・ゲイとの間で、脚の動きのタイミングがシンクロしていたという研究があります。行動が相手に引き込まれる現象自体はよくあることなのですが、十二分にトレーニングをしているアスリートでも起こるところが驚きです。そしてこの例だと、脚の動きがそろってしまうと、脚が長くストライドが長い人のほうが有利ですよね。勝ちたければ脚の短い人はピッチを上げて走らないとなのですが、引き込まれたことによりピッチが上がらない訳です。引き込まれるという現象によって、脚の短い人は残念な結果になってしまう…これも、シンクロすることが必ずしも良いこととは限らない一例ですよね。あるミーティングのブレインストーミングで、「こんな技術があったらいいな」というアイデア出しをしたことがあります。「他人の機嫌が分かるセンサー、要するに感情の見える化センサーのようなものがあったら便利ではないか?」という意見が出ました。これを僕だけが誰にも知られずに持っていたらすごく便利ですが、そうでなかったらどうでしょう?例えば、家に帰る前に妻のご機嫌をセンサーで調べてみたら、なぜか機嫌が悪くて、花でも買って帰ったほうがいいな…ということが分かったとします。僕がセンサーを持っているのが妻にばれていないうちは、気が利いていていい感じですよね。でも僕がセンサーを使っているのがばれたら、「本当は花をプレゼントする気なんてなかったのに、機嫌が分かるセンサーを見て、ご機嫌取りのために花を買ったのね…」という大惨事が待っています。さらに誰もが皆センサーを持っていたらどうなるのかと考えると、もうこれは恐ろしい世界です。感情ダダ漏れになりますから、いかに心を無にして生きていくかという社会になってしまいます。この例のように、新たなコミュニケーションツールが現実に普及したらどうなるかは、一筋縄ではいかない問題ではないでしょうか。イーロン・マスクが設立したNeuralink(ニューラリンク)という会社では脳に電極デバイスを埋め込む研究が進んでいますが、このデバイスを使うことでハッピーになる人がいる一方、ハッピーにならない人もでてくるだろうし、ニューロエシックス(脳神経倫理学)は今後益々重要になると思います。■ 取材日:2023年9月11日

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