Cutting-edge Research■ 引用されないを目指せ?!uselessは褒め言葉?!「これまで数多くの蛍光タンパク質を作られましたが、蛍光の明暗を可逆的に制御できる “Dronpaドロンパ”とか、蛍光の色が緑から赤に不可逆的に変化する“Kaedeカエデ”とか、どれも名前のセンスがいいですね。」「かっこいい!ホチキスやセロテープのレベルですね。いろんな技術を開発されていますけど、次はこういうものを、というのを常に持っているのでしょうか。」■ 新しいテクノロジーで未知の景色を見る:最近発表した二つの成果をご紹介(1) 「小脳の大規模可視化に成功‐マウス小脳における感覚情報表現の仕組みを解明‐」(プレスリリース:2021年11月10日)「小脳感覚入力において新しい階層構造が見えてきたという成果です。」(2) 「色褪せない蛍光タンパク質‐細胞微細構造やウイルスの定量的観察を可能にする技術‐」(プレスリリース:2022年4月26日)「“StayGold ステイゴールド”はどのようにして生まれたのでしょうか。」苦悶は発表の後にやってきます。名前のインパクトに負けてはいないかとあれこれ考えてしまうのです。Kaedeの色変換については天覧実験を行う機会に恵まれました。2006年のことです。当時の皇后陛下美智子様から「Kaedeという名前が本当に素敵ですね」と仰っていただき心穏やかになりました。実を言うと、Kaedeの原著論文はもうほとんど引用されません。その昔、野依良治先生は師の福井謙一先生から言われたそうです。「引用されるようではまだ駄目。世界標準として固有名詞にならなければ」と。いろいろ持っています。死ぬまでにその1割でも達成できたら、くらいの感じでしょうか。革新的な技術というのは、タイミングよく他の技術にブーストされて飛躍すればよいのですが、そうでなければしばらくはuselessの状態。ある意味「君のテクノロジーはuseless」というのは褒め言葉。時代を先取りし過ぎているということ。何らかのブーストを待つ潜在的な革新的技術はどこにでも転がっているのだと思います。カメレオンはカルシウム依存的に蛍光色が変わるタイプ。プローブの発現量や励起光の強度に関わらず定量的なカルシウムイメージングを可能にします。現在もっとも広く使われているG-CaMP*5はカルシウム依存的に蛍光強度が変わるタイプで定量性は乏しいのです。僕らはカメレオンのトランスジェニックマウスを作製していた。これを活用して道川貴章研究員が小脳の大規模定量的解析を行い、登上線維を介する感覚入力におけるまったく新しい階層構造を発見しました。登上線維の発火量を小脳全体に渡って調べたところ、およそ200個のセグメントに分かれて様々な階調で変動する様子が明らかとなりました。これはカメレオンを使った定量的イメージングでないとまずできない発見です。セグメントレベルで広視野かつ高速のイメージングがどんどんたまりました。その結果、小脳感覚入力の情報処理が分散型であることが明らかになりました。小脳の頑強性を裏付ける極めて重要な知見と言えます。小脳の出血や梗塞においては病巣のサイズに比べて症状が軽いことが指摘されているのです。タマクラゲは1〜2ミリの直径、小ぶりながら明るい緑の蛍光を発するので、宮城教育大学では小中学生の夏の実習の実験動物として使われています。タマクラゲのゲノム解析をされていた東北大学大学院生命科学研究科附属 浅虫海洋生物学教育研究センターの竹田典
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