CBS Magazine vol.5
10/16

Cutting-edge Research「蛍光タンパク質の改良にあたっては、結晶構造などを元に理論的に攻めるのですか。」■ Light and Lifeの探索は続く「生きものはなぜ光るのでしょうか。なぜ蛍光を発するのでしょうか。」代先生に誘っていただき、共同研究が始まりました。非常に長い時間がかかりましたが、安藤亮子研究員がタマクラゲの緑色蛍光タンパク質の遺伝子クローニングに成功しました。それを元に、平野雅彦研究員が、明るく退色しない蛍光タンパク質を開発。これをStayGoldと命名しました。実は蛍光タンパク質では「明るい」と「褪色しない」はほとんど両立できないと相場が決まっています。StayGoldにおいてこのトレード・オフを打破できた理由はまだ謎です。いずれにしても褪色問題は手強いです。はまってしまうとなかなか脱出できない。今も「褪色の沼」には腰までずぶり漬かって夜も眠れないくらいです(笑)最近は賢くて合理的なやり方もトライしています。ただし、僕らの経験では、未だに体力に任せるやり方がより効果的かもしれません。愚鈍にもなるべく沢山の変異体を作製してあとは天命を待つ。もちろん想定内外の優れた変異体を見出すための創意工夫を様々に凝らします。いささか縄文式と言えるかも。いいものが舞い降りてきたらひたすら感謝です。光と生命との相互作用を究めると自然への畏敬の念に辿り着くように思います。地球上に存在する光る生物を、いったい人間はどのくらい把握しているでしょう?たぶん1%にも満たないと思います。われわれ人間よ、科学者よ、驕るなかれ、とも言い放ちたい。よく分かりません!確かな答えがないぶん想像がたくましくなってますます面白い。オワンクラゲに関して言えば、発光器官にある化学発光タンパク質イクオリンが主役です。だから深海の暗闇でも自力で光ることができる。GFPはその光の波長を変えるだけ。オワンクラゲが何の目的で光るのか、そして色を変えるのか、推測の域を出ません。一方、造礁サンゴは明るい海に棲息しています。サンゴが作る蛍光タンパク質は、この動物が日光を浴びながら褐虫藻と上手く共生するために一役買っているらしい。この共生は、地球環境保全の観点からも極めて重要と考えられています。さらに、僕らが2013年に発表したニホンウナギの蛍光タンパク質UnaGにいたっては謎だらけ。青色光の照射でニホンウナギ稚魚の体幹は立派な緑蛍光を発します。赤道付近で孵化した稚魚が集団を形成し、海流で運ばれながら月光を浴びてボワーと大きく光ったら、捕食者を威嚇するのに足りるかも。エッジを抑える蛍光ならではの生存戦略だとしたら、生命の光との戯れは何と健気に詩的なのでしょう。*1 転写:DNAの遺伝情報がRNA分子に写し取られること。*2 PubMed:生命科学系、医療系の論文検索サイト。*3 「ストライヤーの生化学」:生化学の教科書。ルーベルト・ストライヤーは20代でテキストのほぼ全体を書き上げたらしい。*4 GFP:下村脩博士によってオワンクラゲの発光器官から同定された緑色に光る蛍光タンパク質。*5 G-CaMP:2001年に中井淳一博士らによって開発されたGECIの一種。これを元に、アメリカの研究グループによってGCaMPが数多く開発されてきた。■ 取材日:2022年11月10日

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る